ホットミルク

牡丹雪が激しく降った午後
薄暗くなった部屋で
窓辺で雪降る風景を見つめながら
ふたりで語りあった
ひとつの魂をふたりで分け合って
ささやきあうように

もうすぐ三十歳になる君に
誕生日プレゼントは何がいいかと尋ねると
「私は永遠の十六歳でいたいの」
私を見つめながら切なそうに話した
いつまでもキラキラとしていたいのと
もうそうではないかのように
はるか先まで真っ白になった
雪景色を遠く見つめながら

そんな君を見つめていると
そこに十六歳の少女がいて
その清らかさにはっとした
私は三十歳の君の中に
十六歳の君に出会えたことがうれしくて
そのうれしさを伝えたかった
でもうまく説明できそうになく
がっかりさせるだけの言葉を選んでしまいそうで
君の空になったカフェオーレカップに
キッチンで温めて入れた
ホットミルクを注いで渡した

雪は先ほどよりも激しく降っていて
窓辺でたたずむ姿をいとおしく感じた
しんと静まった部屋にカチカチと鳴りながら
針が進む
掛け時計の音が響いていた

君がホットミルクを飲みながら
自分が十六歳のときにどんな生活をしていたかを
相槌を打ちながら聞いていた
その頃好きだったバンドのボーカルの人の話や
部活でバスケットをしていて
インターハイ予選で決めたスリーポイントシュートの話や
ものすごくでたらめだけど好きだった先輩の話
そして最後に、ためらいながら引かないでねと一言添えて
十八歳のときにニ十歳離れた大人の男性と恋をした話を
言葉を選びながら話をした
なぜ今そんな話をしているのか
君の心の中を見つめながら話を聞いていると
私のことを大切に思っているからこそ
話してくれているんだなと
ひとつの魂を君と分け合っている私には感じ取れた

ひとしきり話し終わった君は
左頬をゆがめながら唇を噛んでうつむいた
私は君を引き寄せて抱きしめると
うなだれたまま私に身を委ねた
君の頭をそっと撫でると
私の肩を噛んで涙をこらえながら
固いねと笑った

カップに半分ほど残った
ホットミルクは冷めてしまったけれど
おなかに入ったホットミルクは
君を温めたはずだと思って
私も温かな気持ちになった

激しく降っていた雪は一面を白い世界に変えていた
部屋はぼんやりと薄暗く
そのぼんやりとした薄暗さが心地良かった
永遠の十六歳と私がおどけながら笑うと
君はだから誕生日プレゼントなんていらないからと笑った
十六歳なら十六歳らしく
プレゼントをねだればいいものをと思ったが
思っただけで言わない事にした
十六歳の誕生日なら毎年十六本の花を贈ればいいかなと
漠然と思ったまま、今はぼんやりとしていたかった
ひとつの魂をふたりで共有している感覚にひたったまま

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