白の肖像

影の写真ばかり撮影している写真家がいました。どんなに美しい人がいても、影の写真しか撮りませんでした。その撮影スタイルは写真家になった若い20年前から一貫していて、揺らぐことはありませんでした。今では影の写真だけで、何とか生計を立てていけるほど、確かな腕前になっていました。

ある日、目深に帽子をかぶったシルエットの美しい女性kaoriに出会いました。写真家は、最初kaoriのシルエットに惹かれて、影の作品の被写体として声をかけました。

実はkaoriは自分の顔を好きになれず、コンプレックスを持っていました。小さい頃に好きな男の子に傷つくことを言われて、それ以来、いつも目深に帽子をかぶり、顔を隠して、表に出さなくなったということでした。

写真家は、kaoriのお話を聴いているうちに、コンプレックスも含めて、人柄、話し方、知性・・・全てを好きになりました。もちろん顔も。深くかぶった帽子のすき間から垣間見える顔は、目鼻立ちがすっとしていて、内面の美しさもにじみ出ていて、本当に美しかったのです。

これまで影の写真しか撮影してきませんでしたが、kaoriには顔を撮影させてほしいと申し出ました。kaoriは最初驚いて、それは無理です。駄目ですと固く拒否しましたが、写真家の何となく飄々とした人柄や、真剣にお話を聴いて自分の想いを引き出してくれる姿に惹かれて、一枚切りならという約束で、撮影を許しました。

kaoriは写真家の前で、おそるおそる帽子を取り・・・・・・・うつむいたままそっとほほ笑みました。写真家も静かにほほ笑み返し、その笑みには言葉なくても通じ合える想いがあふれていました。

一枚きりという制約の中、kaoriの本来持っている美しさを充分に引き出した写真を仕上げることができました。しかし、その一枚を世間に向けて発表するどころか、誰にも見せることがありませんでした。そして、kaoriにプレゼントしました。Kaoriは自分の魅力を見事に引き出した写真家に感謝し、自分に自信持てるようになり、目深にかぶっていた帽子を取り去り、顔を出して暮らせるようになりました。

写真家は、再び影の写真ばかり撮影するようになり、決して他の人の顔の写真を撮影しようとはしませんでした。kaoriはそういう写真家に好意を抱くようになりましたし、お互いの通じ合う想いを育てていくことに幸せを感じるようなりました。写真家もkaoriをかけがえない女性として、大事にしました。

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