月の美しい夜に、魚の夢を見る。目を瞑ると、広がる海原。耳を塞ぐと聞こえる、波の音。鼻を塞ぐと薫る潮の匂い。手を伸ばすと、遠くへ去る。踵を返すと、寄せてくる、祈るように踊り、笑うように歌う。この世に一人しかいない。男は女になり、女は男になり、波間にメッセージボトルが浮かぶ。消えた肖像、冴えた月光。ここから見るから、欠けているのさ!欠けていることは美徳さ!そう叫ぶと、欠けていることを幾つも並べると、満ちてしまうのが可愛いねと満月を見上げるたびに、笑顔になれる二人。カチンと音がして、氷が割れた。パチンと鳴って、カタバミが弾けた。そんな美しい夜のことでした。
