白い石鹸

<心の情景>

雨が降っているので、いまだと思い、石鹸を草原に埋めました。きっといつかそこから青い芽が出て、美しい花が咲くに違いない。地中深く埋めないとカラスにやられてしまうと思い、スコップで20cmほど掘って、真っ新な白い石鹸を箱から出して、そっと埋めました。そのことを友達に話すと、目を白黒させながら、綺麗な花が咲くといいねと困ったような声で答えてくれました。

 私はずっと待っていました。それは好きな人からの便りを待つように、楽しく待ち遠しい時間でした。でも、いっこうに花が咲くような芽は出ずに、埋めたところは埋めた時のままでした。別の友達にお話しすると、頭おかしいのではないの!ときつく言われましたが、私は信じていました。そして信じていたにもかかわらず、私はいつの間にか石鹸を埋めたことを忘れてしまいました。

 数か月後、私にはもったいないような美しい心の持ち主の恋人ができました。私の汚れた心や手で触るのは穢すようで申し訳ないような方でした。どうして私にそんな恋人ができたのか不思議に思い、そうだ!石鹸を埋めたからだ!ということに気がつき、石鹸を埋めた草原に恋人と一緒に行きました。草原に行ってみると、石鹸を埋めた場所には美しい花は咲いてなくて、どこに埋めたか分からないような一面の草原に戻っていました。私はそのことに深くがっかりしましたが、恋人は石鹸を埋めたということを面白がってくれて、私はジーンとした幸せに包まれました。地中を掘ってみると石鹸は降った雨によって泡になって、恋人に姿を変えて目の前に現れてくれたのだと感じました。それは本当に美しい姿でした。

 でも、私の汚れた心を洗い流してくれた分だけ、恋人は心をすり減らしていきました。私は恋人が心をすりへらしていかないように別れを切り出すことにしました。恋人は私と別れることを悲しいことだと言い、十分幸せだと話してくれましたが、私は申し訳ない気持ちが先に立ち、私からお別れすることにしました。

 しばらくして恋人は私と違って美しい心の持ち主と一緒になりました。汚れがないきれいな心の持ち主でした。恋人はもちろんのこと心をすり減らしていくことはありませんでした。幸せかどうかは私にはわからないことでした。でも、それで良かったのだと思うことにしました。

 そして、私は、何事もなかったように夏草の茂る草原で、白い野の花を愛でて生きることを選択しました。風だけが上空を駆け抜けて、乗り捨てられたハッチバックの車のガラスに青い空が映っていました。

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