水に溺れる夢

水に溺れる夢を見た。いつもくり返し見る夢。

水はひんやりと冷たくて、水蜜桃の果汁のように甘い味がした。泳ぐわけでもなく、苦しさから逃れるわけでもなく、水の中でゆらりゆらりと揺れている。そうして溺れているうちに、いつも助かってしまう。このまま死んでしまってもいいはずなのに、全く知らない場所に打ち上げられて、気づいて辺りを見回すことになる。

今回助かった先は、バスの廃車置き場で、動かないバスが二十台ほど放置されていて、どのバスでも「降ります」の押しボタンのランプが紫色に点灯して光っている。辺りを見回しても誰もいなくて、僕はひとりぼっちで、誰かいないか探し回っている。探し回っていると、一番奥に放置されているバスの最後尾の席に一人女性が座っていて、手招きをする。

「待っていたのよ、おいでここよ」って。とても美しい女性だが、一歩近づくと、髪の毛を逆立てて、目が鬼のように怖くなる。それでもなお一歩近づくと、「それ以上近づくな」と怒鳴られる。構わず近づいて、隣に座ると逆立てていた髪の毛が元に戻り、鬼のように吊り上っていた目は可愛い目に戻り、身を硬くしてじっとしている。そっと手を握ると濡れていて、ひんやりと冷たかった。よく見ると、腕の付け根から濡れて滴がしたたり落ちていた。

「僕のこと怖いかい?僕は化け物なんだ」と言うと、首を横に振って否定する。「待っていてくれたんだね」というと、そうだと答える。「助けてくれたのは君かい?」そう尋ねると、そうだと言う。「なぜ、助けたの?」と聞くと、「溺れている姿がとても寂しそうだったから」と言う。

「バスから降りようか?それともここでずっといようか?」と聞くと、「もちろん降ります」と言い、二人で手を繋いで、バスから降りた。すると、一斉に二十台近くのバスが走り出した。壊れて動かなかったはずなのに。

バスが放置されていた場所には、草花の芽が出て、みるみるうちに花が一面に咲いた。僕はその中からクロッカスの花を摘んで、女性の胸のポケットに挿してやった。夢が夢に終わらなければいいなと願った途端、皮肉にも目が覚めた。部屋の中は夜明け前で薄暗く、喉はカラカラで、掛け時計の針が進む音だけ響いていた。

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