ミモザ

花言葉:秘密の恋

月の美しい夜だった。霞んだ闇に月が滲んで淡い光を放っていた。街路樹のミモザは今が盛りだった。修司はこれっきり二度と会えない恋人を見つめるような目で弥生を見つめていた。弥生はこの世に男は修司一人しかいないというように見つめていた。

修司の孤独を癒やせるのは、弥生しかいなかった。孤独は孤独でしか癒せない。弥生もまた、これまで孤独を抱え生きてきた。弥生の孤独もまた修司に癒されていた。結ばれるべくして結ばれたと少なくとも修司は感じていた。そして、弥生もそう感じてくれているという強い確信を持っていた。

目を閉じていても、耳を塞いでいても、本当は良かった。街の喧騒も、車のクラクションも、聞えなかった。触れ合っていられる距離にいれば。

唇と唇を重ねあった。修司の薄い唇にぴったりの、弥生のぽってりとした厚みのある唇だった。唇と唇の凸凹が、決められた鍵と鍵穴のように快楽や歓びを引き出す、代わりのきかない唇だった。時が経つのも忘れ、永遠とも思える時間だった。

冬の匂いと春の匂いの交わった、少し冷たい風が吹いていた。

弥生のほかに何もいらないと修司は思った。男がほしい、名誉や地位や財産すらも価値のないものに思えた。弥生のことしか見えなかった。弥生のような女と出会えて、全てを司る神様にすら嫉妬される気がした。そう囁くと、彼女は目を瞑って、自ら唇を重ねてきた。月に照らされた頬は、病的に白く透き通り美しかった。

頭上のミモザの花は狂ったように咲き、月明かりに照らされて、きらきらと輝いていた。

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