この世界のどこかで月を眺めている君だけのためにある安らぎがここにはある

男の胸の中で女はひどく疲れた顔をして、少し休みたいと目を閉じた。この世界の中で孤立して傷ついている女が描く世界に、人々は魅了され賞賛の言葉を浴びせ掛ける。女はその賞賛の言葉のひとつひとつを拾っては、痩せた胸に突き刺していく。

聡明な女だからこそやってのける愚かな行為を男は静かに見届ける。胸の中で休む女はまぶたを震わせながら目を閉じている。女の描く世界は愚かな行為に身を投じる女だからこそ踏み込める、静謐の場所から届けられる。内面の烈しさに統制された豊かな感情は群青の色を帯び、ところどころ赤く焼けてただれている。男は赤く焼けてただれた場所にそっと手を当てる。手に伝わってくる脈動は男の脈動と共鳴して熱が冷めていく。

男の胸の中で休む女は落ち着きを取り戻し、そっと離れた。憂いを帯びた目は遠いところを見ていて、男などもう見ていない。女は踵を返しまた孤立した世界へ戻っていき、この世のものとは思えない美を作り出していく。

海岸に打ち寄せてくる波は、押し寄せては引き押し寄せては引きする。二人を結びつけるものは求め合う二人の引き合う力ではなく他ではない何かである事をお互い知っている。だからこそ二人はどこかで再び出会い、何事もなかったように身を寄せ合うだろう。

空には弓のような月が浮かび、二人は別々の場所で見つめている。

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