比翼連理

布片を縫い合わせて作った危険な気球に乗って、裏の世界に入った。表の世界にはない闇と安らぎがあり、私のような者には心地よかった。淫らで薄汚れていて、人の手で作られた偽物の物語がなかった。表の世界では死んだように生きていた。私は自分が嫌いで、人からも嫌われていて、全てを持っていながら、全てを失っていた。

 裏の世界で知り合った女性がいた。抱きしめ合うと、温かくて、それだけで良かった。胸に耳を当てると、とくとくとく、とくとくとくと鳴っていた。それはどんな音楽よりも美しい音だった。 

二人は群青色に三日月の紋様の入った飛行船に乗って、表の世界に入った。彼女のささやかな夢である、アイスクリーム店を開くために。海辺に石垣を積み、帆布で屋根を作り、お店を作った。手作りの小豆のアイスを天ぷらにしたものが看板メニューだった。

私たちは表の世界に入ると、醜い姿だった。しかし、それで良かった。表の世界で抱きしめ合うと、ひんやりとした肌が心地よかった。その冷たさを確かめ合うために何度も抱きしめ合った。 

表の世界の人々は、美しいものや優しさや正しさを求めすぎているように思えてならなかった。私たちの姿は、本当は醜く、正しくなく、薄汚れているというのに。 

ひどく疲れた顔で二人は見つめ合った。目の下に隈ができていて、皮膚がただれて、ひどい顔をしていた。ひどい顔をしているねと笑いあった。

 二人には二人にしか分からない暗号があった。それは抱きしめ合い、唇を重ね合えば、鍵が開いて呪文の出る仕組みだった。他に変わりの存在は見当たらなかった。

私が嫌われ者であることを彼女は知っていて、それでも私を選んでくれた。彼女はいつも死を望んでいて、私はいつでも一緒に死ねる用意ができていた。

私の詠う歌を彼女は愛してくれた。それは私にとって何にも代えがたい喜びだった。彼女の笑顔を見るためには、私は労を惜しまなかった。彼女を不幸にする存在を呪い殺す勢いのある呪詛を操っていた。それによって生まれる副産物の体の異変や心の苦しみは自分のものとして受け止め、薬草で毒消ししていた。

二人は約束されたつがいだった。失うと飛べなくなる比翼連理。

アイスクリーム店は堅調に売り上げを伸ばし、二人は裏の世界で這い上がれない者たちに施し、苦楽を共にした。

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