キズ物しか買い取らない質屋

キズ物しか買い取らない質屋があった。新しいものやキレイなものには値段をつけずに決して買い取らなかった。キズ物にも基準があって、乱暴に扱ってついたキズは評価の対象にならなかった。大事に使っていてついたキズのみが評価の対象だった。質屋の亭主は品定めするときはタカのように鋭い目付きになったが、なぜこの商品を質入れするようなことになったか、そしてまたなぜこの品物にはキズがついたか批判せずに優しい声で聞いた。できるだけ高額のお金を引き出したいと思って持ってきたお客は身構えるが、次第に亭主に心を開いて自分自身について語り始めるのだった。
 品物に値段をつけるのではなくて、お客が話す傷ついた物語に値段をつけて、お金と交換していた。お客は亭主とお話したことで、どこか心についていたキズや痛みがやわらぎ、そして質入れした商品についても思い入れを感じて、ほとんどの人が手もとに戻すためにお金を用意して、また来店することになった。
 そういう遣り取りが評判になり、質屋は繁盛していた。なかには質入れする商品を持たずに、話だけ聞いて欲しいという人まで現れたが、亭主は快くお話を聞いた。アドバイス等はしない。否定せずに話を聞いているだけ。でも、そういうことが実は難しいのだ。心に深い傷を負い、それを乗り越えてきたもののみが身につける技術であると思っている。

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